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大阪高等裁判所 昭和58年(う)689号 判決 1984年9月28日

本籍

大阪府守口市豊秀町一丁目三八番地

住居

同府同市八雲東町二丁目一五四番地の三 守口ビューハイツ一、一一〇号

飲食店業及び娯楽機械製造販売業

城畑元信

昭和九年二月三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五八年二月二八日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、原審弁護人両名から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 小林秀春 出席

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人梅垣栄蔵、同梶谷哲夫連名作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官小林秀春作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一(事実誤認の主張)について

論旨は、原判決は、(一)昭和五二年一二月三一日現在における被告人の現金保有高、(二)大阪サービス販売株式会社(当時の商号は株式会社大阪サービス)に対する合計三、〇〇〇万円の貸付金、(三)喫茶店コスモ守口店の所得の帰属の三点について事実を誤認しているというので、所論と答弁にかんがみ記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討し、次のとおり判断する。

一  昭和五二年度末の現金保有高について

所論は、同年末における被告人の現金保有高は、原判決認定の一六五万円のほかに、妻城畑こず江が保管していた一、五〇〇万円及び被告人が所持していた七五〇万円の計二、二五〇万円を加えた合計二、四一五万円であると主張する。

そこで、右主張の当否について検討すると、弁護人が論拠としているのは、城畑こず江及び被告人の各原審供述が主たるものであるので、これらの信用性について考える。

まず、城畑こず江が一、五〇〇万円を保管していた旨の原審証言は、現金の出所につき二転三転して曖昧であり、売上金及び自己蓄積分の各五〇〇万円を預金せず、これらを手許に保管していた理由についても納得し難いうえ、インベーダーゲーム機の購入予定については誘導尋問により具体化するなど、全般的に極めて不自然である。所論は、昭和五二年末から同五三年初ころはインベーダーゲーム機のブームであったから、常時その購入資金を準備して置く必要があったというが、関係証拠によれば、右のブームは昭和五四年春から生じたものと認められるから、昭和五二年末にその購入資金として一、〇〇〇万円(同女の結婚前からの蓄積分を除いても五〇〇万円)もの現金を手許に置く必要があったとは考えられないし、また所論の現金保有高が昭和五三年以降の各年末の手持現金額と比較して多過ぎることについても合理的説明がなされているとはいえず、更に昭和五三年三、四月以降に一、五〇〇万円を小刻みに預金したと証言している点についても、関係帳簿等にはこれを裏付けるものがないことに徴すると、同女の証言は到底信用できない。

次に、被告人が七五〇万円を所持していたとの点については、原審における被告人質問の段階で初めて供述したものであるうえ、前示のとおり昭和五二年末当時にはインベーダーゲーム機のブームは到来していなかったと認められるから、その購入資金として四、五百万円の現金を手許に置く必要があったとは考えられず、またうどん店「三九」の売上金約二五〇万円については、弁護人から再三誘導されて最終的な金額を特定しているのであって、その供述内容は極めて曖昧であるから、被告人の原審供述は到底信用できない。

所論は、被告人が捜査段階で所論のような現金保有高について供述しなかったのは、取調官が被告人の税法、刑事訴訟法等の法的無知に乗じ、ことさら釣銭と手持現金についてのみ取調をした結果であるというが、被告人の昭和五七年一月二一日付質問てん末書及び検察官調書によれば、取調官から各年末の現金保有高全般について取調を受けていることが認められ、かりに税法等の知識がないとしても、その前歴に徴し、昭和五二年末に一六五万円のほかに手持現金があれば取調官に十分供述し得たものと考えられるから、被告人の原審供述は単なる弁解のための弁解とみるほかはない。

弁護人が所論の論拠とする諸点について検討しても、原審の判断には合理的根拠があり、現金保有高を一六五万円と認定したことに誤りはない。

二  貸付金について

所論は、原判決認定の大阪サービス販売株式会社に対する合計三、〇〇〇万円の貸付金は、虚偽架空のものであると主張し、その理由として、同社が税務調査を受けた際、社長の牧野征彦から税務対策として貸付金を仮装してくれと依頼されたためであるという。

しかしながら、原審証人牧野征彦は、従前の貸借と異り、昭和五三年一一月九日の一〇〇万円を初めとする本件各貸付金について借用証を作成したのは、その頃から自社の資金需要が増大して借受金が高額化するとともに、旧債を返済する前に追加貸付を受けるようになったため、被告人の要求によって作成したからであると具体的に説明し、その返済状況についても記憶している限りは答え、他の明細については会社の帳簿を見れば明らかにできる旨を証言しているのであって、同人の原審証言は関係証拠とも合致し、原判決が詳述しているとおり十分信用できるものと認められる。

被告人は、原審及び当審において、所論にそう供述をしているが、本件各貸付金に関する借用証、帳簿等の記載が、虚偽架空のものであるならば、牧野の会社に対する税務調査が終了した後にそれらを返還または廃棄して然るべきであるのに、その後に本件各貸付が記載されている昭和五四年用の手帳を尾崎商店に対する貸付関係書類などとともに義弟藤澤榮治郎宅に預けたり、右税務調査から少くとも五年経過した現在において、借用証原本を所持しているのは、牧野が原審及び当審で証言するように、真実本件各貸付金が存在していたためであると認められ、所論のようにそれが虚偽架空のものとは認められない。原判決の認定は相当である。

三  喫茶店「コスモ」守口店の所得の帰属について

所論は、被告人は捜査段階において最終的には自分が喫茶店「コスモ」守口店の所有者であり、かつ利益の帰属主体であると供述しているが、これは取調官に誘導され迎合する供述をしたものであるから信用できず、同店は現在は藤沢ハナヨ、それ以前は藤沢清が所有していたものであるから、被告人を同店の経営者と認定した原判決には誤りがあるという。

しかしながら、被告人は昭和五六年九月二九日付質問てん末書で所論にそう供述をしているけれども、藤沢榮治郎の質問てん末書及び検察官調書、城畑こず江、明圓和良の各質問てん末書、大蔵事務官作成の昭和五七年一月一六日付、同年二月一日付各査察官調査書等関係証拠によれば、調査の進展につれ、本件喫茶店の実質的な賃借人、営業設備の譲受人、造作費の負担者、従業員の雇主、売上金の取得者等が被告人であることが明らかになってきたため、昭和五六年一二月一七日付質問てん末書及び検察官調書等において、自らが同店の経営者であると供述するに至ったものと認められ、その供述は十分信用できるから、被告人を同店の所得の帰属主体と認定した原判決に誤りはない。

その他所論にかんがみ検討しても、原判決には事実誤認は存せず、論旨は理由がない。

控訴趣意第二(量刑不当の主張)について

論旨は、原判決の量刑不当を主張するので検討するのに、本件は昭和五三年、同五四年、同五五年の三年度にわたり総計一億一、九二五万円という多額の所得税を免れた事犯で、各期の逋脱税率は極めて高率であり、犯行の動機は利己的であって、犯行態様も一部の営業を義弟名義にして同人名義で確定申告をし、あるいは仮名で預金し、他人名義で不動産を取得するなど、極めて計画的で悪質といわねばならず、その刑責は軽視できない。被告人が金融機関から融資を受け、更正、決定による三年度の本税、付帯税、加算税の総額を納付していることなどの諸事情を十分斟酌しても、原判決の量刑が重きに過ぎるとは考えられない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 兒島武雄 裁判官 荒石利雄 裁判官 中川隆司)

○ 控訴趣意書

被告人 城畑元信

右の者に対する所得税法違反被告事件についての控訴の趣意は左のとおりである。

昭和五八年七月一八日

右弁護人 梅垣栄蔵

同 梶谷哲夫

大阪高等裁判所

第三刑事部 御中

第一、 原判決には、明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認が存するので、その破棄を求める。

一、 被告人の昭和五二年末時点の現金保有高について

(一) 原判決は、右現金保有高について、検察官主張のとおり、一六五万円である旨これを認定している。そして原判決は右認定に反する証拠である証人城畑こず江及び被告人の供述の信用性については詳細な検討を加えているが、その認定の積極的証拠については「前掲各証拠によれば…」とするのみで何ら説明がない。

原判決は、右現金保有高一六五万円の内訳として、これについても検察官主張のとおり『うどん店「三九」の釣銭二〇万円、お好焼店「三九」の釣銭一〇万円、喫茶店「コスモ」守口店の釣銭五万円、以上三店の昭和五二年一二月二九日から同月三一日までの三日間の売り上げ金合計五〇万円、被告人が日頃財布に入れていた二〇万円及び被告人の妻城畑こず江の手持現金六〇万円である』としている。

そこで、まず原判決認定の積極的根拠について検討する。

(二) まず第一に、原判決の認定によれば、昭和五二年末に被告人が有していた現金は右三店舗の釣銭、一二月二九日以降の三日間の売り上げ、被告人及び妻こず江の手持金計八〇万円しかなかったことになっているが、その額の点は別として、右以外の他の範ちゅうに入る現金が全く考慮されていない点、右認定の大前提に疑問がある。

蓋し、被告人は、昭和四六年ころ独立し、ジュークボックスのリースの仕事を始めており、その後カラオケのリース業を経て、昭和五二年末当時には所謂る娯楽機(ゲーム機)のリース等に業種を拡大していた。そして、当時被告人が取扱っていたリース機は一〇〇台を下らないのであった。しかも、今問題となっている昭和五二年末当時は、所謂るインベーダーブームの走りの時期であり、被告人の供述にある如く圧倒的な需要過多のため現金を常時準備し、取引の話しがあれば、すぐ現金を掴んで飛び出さなければ機械を手に入れることが出来ない状況にあったのである。そうしなければ流行のサイクルの極めて短い娯楽機の業界で商売すること自体が不可能なのである。

この様な被告人の主たる営業とも云える娯楽機のリース業を一切捨象して被告人の手持の営業用現金を副業としか云い得ない前記三店舗の釣銭にのみ限定することは前述の如く極めて不自然であり、証拠をもって認定する以前に主張それ自身が杜撰であると云わざるを得ないし、これを無批判的に自己の認定の基礎とした原判決に事実誤認の存することは明らかである。

(三) 次に原判決は、明確ではないが、検察官の主張を容れることにより、昭和五六年九月二九日付枚方信用金庫守口支店橋本茂夫作成にかかる確認書(検第四八号)に記載されている昭和五二年一二月二八日付一〇万円の現金入金の事実を根拠に、被告人の収入のうち現金で保有されている額を一二月二九日以降三日間の三店舗の売り上げ額である五〇万円に限定している。しかし、ここでも前述した如く被告人の主たる営業ともいえる娯楽機リース業が一切無視されている。そして、以上の点を別論としても右認定は、被告人が三店舗の売り上げを全て枚方信金守口支店に預金しているとの前提に立っているのであるが、前記元帳をいくらひっくり返してみても右前提を基礎づける何ものも発見できないのである。

確かに、もし被告人が三店舗だけを経営しており、娯楽機リース業を営んでおらず、しかも、三店舗の売り上げを全て預金していたとするなら、更には一二月二八日の一〇万円の現金入金が右三店舗の売り上げとするなら、年明けまで預金の事実がないことをもって三店舗の二九日以降の三日間の売り上げが被告人の手持金として現金形態において保有されていたと解することも許されるであろう。

しかし、先に述べている如く、この前提はいずれも事実に反するものなのである。例えば、被告人は、昭和五二年一二月一三日に五〇万五、七〇〇円を現金入金しているが、その後の二五日までは一切入金しておらず次の二六日にはその間一三日と日が空いているにも拘らず、一三万七、三〇〇円しか入金していないのである。そして二八日の本件一〇万円の現金入金へと続くのである。これだけとってみても、原審認定の前提となる三店舗の売り上げは全て預金されていたとする大前提が事実に反することは明白である。

この点について、被告人は、昭和五七年一月一二日付質問顛末書において、原判決の認定に沿う供述をしているが、一二月二八日に一〇万円入金されている事実をもって被告人の営業収入のうち手許に保有していた現金が三店舗の約三日間の売り上げ金五〇万円に限定されるというその理由については一切述べられておらず、しかも、二八日の現金入金分一〇万円が如何なる金であるかについても一切説明されていない。如様な被告人の供述をもってその結論だけを証拠として採用することは一般の論理法則からしても許されないところであると云わざるを得ない。

(四) 更に、原判決は、妻こず江の手持金については六〇万円であった旨認定している。これは国税局が昭和五六年九月二九日被告人方に査察に入った時、同女が和ダンスの中に六〇万一、〇〇〇円の現金を持っていたことから短絡的に五二年末当時にもこの位は持っていたであろうと推測した検察官の結論を無批判的に認容した結果である。

被告人が右推測に沿う供述をしていても、右推測に合理的根拠のない以上、この供述にも証拠価値のないことが明らかであるばかりか、同女はこの点を明確に否定する供述をなしており、その供述は後に述べる様に具体性があり十分信用できるものである。

(五) 以上述べたところからも原判決のこの点についての認定が誤りであることは明らかと云わざるを得ない。

被告人は、原審公判廷において、昭和五二年末当時一台、五八万円から六二万円する娯楽機を一〇台位購入できる資金四~五〇〇万円を準備し手許に置いていた旨供述しており、また「うどん店三九」の売り上げをダンボールの中に突っ込んで約二五〇万円保有していた旨供述している。つまり、被告人は、当時約七五〇万円を検察官主張額以外に保有していたのである。

更に、妻こず江は、原審公判廷において、同女自身の現金保有高について娯楽機購入資金として自宅金庫内に一、〇〇〇万円、そして別に「お好焼店三九」の売り上げを子供のおもちゃ箱の中に入れ保管していた分が五〇〇万円あった旨供述している。この両名の供述にある如く、被告人は昭和五二年末当時原審認定額以外に二、二五〇万円を現金形態にて保有していたのである。この点について原判決は右両名の供述に対する信用性の検討という形で判断しているので、この点について以下考察する。

(六) 原判決は、まず証人城畑こず江の供述を検討し、その信用性について否定的判断をなした理由として、<1>同女が入金したという枚方信金守口支店の被告人名義の普通預金口座は昭和五二年八月二七日に開設され少なくとも同年中に三二回の現金入金がなされていると認められること。<2>昭和五二年のリース用娯楽機の支入れ単価は二六万二、〇〇〇円で年間支入れ台数が三〇台ないし三五台と解されるので、同女の供述する様な多額(一、〇〇〇万円)の購入資金を準備する必要が認められないこと。<3>昭和五三年、同五四年、同五五年各年末の現金保有高に比し同五二年の現金保有高が極端に多いということについての合理的理由がないこと。<4>同女が昭和五三年に預金を始めた動機と預金状況が一致しないこと。また自宅内に金庫があるにも拘わらず、「うどん店三九」の売り上げをおもちゃ箱に保管していた理由が判然としないこと。<5>捜査段階において、同女は収税官吏に対し積極的に現金高について述べていないこと。<6>当時被告人と同女の会計は別であり、被告人は妻の会計には全く関知していなかったこと、の以上六点を挙げている。そこで以下検討する。

1(<1>について)

枚方信金守口支店の被告人名義の普通預金口座への昭和五二年内における現金入金は原判決の認定する三二回ではなく、一五回にすぎない。この点は暫く措くとしても、原判決は、右回数をことさら強調することによって、同女の忙がしくて銀行に行くことが出来なかったとの供述は信用できないと結論しているようであるが、しかし原判決の如く云い得るのは右現金入金が同女によってなされたということを前提としてはじめて可能となる。しかるにこのことを立証する証拠は全くないのである。

2(<2>について)

原判決は、リース用娯楽機の仕入れ代金、年間の仕入れ台数の関係から考え、右娯楽機購入代金として同女が保管していたという一、〇〇〇万円は多額すぎ同女の供述に信用性なしとするが、原判決の前提とする娯楽機は所謂る「インベーダー」以前のものであり、前述の如く被告人らが購入資金として準備していた金額の対象を「インベーダー」と解するとき、原判決の如く、同女のいう一、〇〇〇万円が多額すぎるもので信用できないとの結論には至らない筈である。また同女の供述に明らかな様に、あるいは原判決自身認めているとおり、同女の当時の意識としては、右一、〇〇〇万円のうちの五〇〇万円は、その後事業上の収益と出入り混同はあるものの、自分が昭和四二年ころから貯めてきたものという認識があったことは明白である。従って娯楽機購入資金として一、〇〇〇万円を保有していたという同女の供述の信用性を考えるについても前記五〇〇万円については差し引き斟酌さるべきものであろう。

3(<3>について)

原判決は、昭和五二年末の現金保有高が以降の他の年限に比し極端に多額すぎることについて合理的理由がないとするが、前述の如く昭和五三年末には所謂るインベーダーブームは山を越しており、需要過多の状況は解消されていたのであり、昭和五二年末の如く多額の現金を準備する必要はなくなっていたのである。また被告人の供述する如く昭和五三年末当時被告人は銀行と本格的に取引するようになっていたことも合せ考慮さるべきものであろう。これ以上の合理的説明が果して考えられるのであろうか。

4(<4>について)

原判決は、昭和五三年同女が預金を始めた動機は、両親に現金を家に置いておくのは不用心だと注意されたことにあるのだから、その後長期間にわたり、小刻みに預金しているその預金状況が右動機に符合しないと決めつけ、同女の証言の信用性を云々しているものと解されるが、何故一度に預金せず数度に分けて預金したことをもって同女の証言の信用性云々の議論が出てくるのか全く理解に苦しむ。蓋し、昭和五三年初旬は未だインベーダーブームは去っておらず、むしろ製造、販売の段階においてはブームは絶頂期にあったのである。また、被告人の供述にある如く、被告人らは不当時まだ銀行とは本格的に取引を開始していないという点も考慮さるべきものである。以上の諸事情を考える時、むしろ一度に右一、〇〇〇万円を預金せず、小刻みに預金していったという同女の証言こそが合理性を持つものと解せざるを得ない。

5(<5>について)

原判決は、昭和五二年末現在の現金保有高についての被告人及び同女の供述は捜査段階においては一切なされておらず、公判段階において突然出てきたもので措信できないとするが、しかし、被告人の供述に明らかな如く、被告人(妻こず江を含め)には税法、刑訴法等の知識が全くなく、国税の取調べに対しても全く意味が分からないまま、問われるとおり、その限度で取調べに応じていたというのが現実である。もし、被告人が財産法においては五二年期末の現金が多ければ所得が結果として減り、自己に有利であるとの知識があったのであれば本件被告人の主張を裏付ける供述のなされていたであろうことは明らかである。右供述が捜査段階において出ていないのは取調官が被告人の無知に乗じて、ことさら釣銭と手持金についてのみ取調べを行なった結果であることは、被告人の供述に明らかである。

(七) 次に原判決は、被告人の供述について検討を加え、<1>被告人の供述は明確でなく、説得的とは云えない。<2>妻こず江は被告人の保管金について全く供述していないこと。<3>被告人は公判段階までその保管金七五〇万円については一切述べておらず、しかもその理由として述べるところについても措信し難いこと、等の理由を挙げ、被告人の供述の信用できない結果を導出している。そこで各点について検討するに

1(<1>について)

被告人の供述の何処がどう明確でないのか、原判決は合理的説明を一切なし得ていない。

2(<2>について)

原判決も認定しているとおり、被告人は妻とは会計が別で、妻こず江の会計には関与していなかったのであるから、原審の挙げるこの理由はむしろ当然のことを云っているにすぎず、原判決がこれをもって被告人の供述のどこが信用できないというのか全く理解に苦しむ。

3(<3>について)

(五)5記載のとおりである。

(八) 以上述べた諸点を総合するとき原判決の現金についての認定に誤りのあることは明らかである。

二、 貸付金について

(一) 原判決は、証人牧野征彦の供述が橋本茂夫作成の確認書と題する書面等の各証拠の各記載内容に符合すること。証人牧野は、被告人の電話による依頼に対し、真実を述べることを確言したうえで証言していることが認められること。更に、債務者たるべきものが虚偽架空の債務を法廷という場で承認することは極めて不自然と考えられること。被告人自身捜査段階では右貸付金の存在を認めていたこと等を理由として、被告人供述は措信し難く、被告人の大阪サービス販売(株)に対する貸付金三、〇〇〇万円はこれを優に認めることができると結論している。

(二) しかし、原判決の指摘する証人牧野の供述と前項記載各証拠との合致は、被告人の供述にある如く、これはある意味では当然のことなのである。つまり証人牧野は借用書を作るにあたり事前に借用書の額に見合う預金の流れを被告人から予め聞いていたからである。

また、証人牧野は、前証言の過程において、弁護人の質問に対して度々帳簿に記載があるのでそれを見れば分かると証言し、具体的な証言を一切することなく、更に記憶喚起のための一片の努力さえしようとしなかった。確かに帳簿等には貸借あるいは返済の記載があるのであろうが、本件貸借が税務対策として架空されたものであるという見地からはこれまた当然のことであると云えるのである。蓋し、そこまで徹底しなければ税務対策としての意味をなさないからである。更に云うならば、証人牧野の前記証言態度こそ貸借の虚偽架空である事実を如実に物語っていると云える。つまり、証人牧野には、税務対策として架空した帳簿、借用書等しか自らのよるべきものがないからこそ、それを裏付ける具体的事実がないからこそ、右の如き証言態度に終止せざるを得なかったのである。

(三) また、被告人から証人牧野に対する事前の連絡の点についても、被告人が右事前連絡において真実を述べて欲しいとのみ依頼している事実こそ重視さるべきものであろう。

更に、原判決は、それにより債務者となるべきものが虚偽の債務を確めることは不自然と指摘する。しかし、証人牧野が、所得税法違反の刑事被告事件における、しかも極めて厳しい雰囲気の中で、果して自らの犯罪を自認するが如き証言を為し得たであろうか。原判決のこの指摘は、被告人の主張を予断によって排斥し、全ての具体的事情を切り捨てた一般論として理由付けのための理由として持ち出されたものにすぎない。

(四) 被告人は、捜査段階において原判決認定に沿う供述をなしているが、これは長期間しかも長時間にわたる取調べの結果であり、しかも貸付金も資産として課税の対象となることを知らなかった被告人の無知に起因するもので、これをもって被告人の供述を否定することは出来ない。

(五) 以上述べたところから原判決の貸付金についての認定の誤りであることは明らかであるが、以下の事実を附言する。

証人牧野及び被告人の供述を総合して考えるとき、被告人は、昭和五〇年前後から牧野に対して金を貸し始めているが、当時は三〇万、五〇万であったのがインベーダーブームとともに、その額は増え、昭和五三年ころには三〇〇万、六〇〇万、一、〇〇〇万というように非常に高額となっていた事実、そして昭和五三年一一月九日を第一回とする本件三、〇〇〇万円の貸借以前は契約書等一切交しておらず、借用書すら作成していなかった事実が両者の供述に矛盾なく認められる。また本件三、〇〇〇万円の貸借が始まる以前には先の貸借が返済されてはじめて、新たな貸借が行なわれていた事実が同じく認められる。しかるに、本件一、〇〇〇万円の貸借に至ってはじめて借用書が作成されるに至っている。証人牧野は、この点について単に被告人から要求されたからと答えるのみで、以上の様に突然借用書が作成され出した事情について一切具体的な説明をなし得ていない。本件三、〇〇〇万の貸借は昭和五三年一一月九日を第一回とするが、この時の貸借の額は一〇〇万円である。これ以前最高三、〇〇〇万円、これを別にしても六〇〇万円、一、〇〇〇万円と極めて高額の取引を借用書なしでなしておりながら、なぜ、この一〇〇万円について(本件三、〇〇〇万円の貸借の一部)のみ突然借用書が作成されたのか全く理解に苦しむものである。

更に前述の如く、本件三、〇〇〇万円の貸借以前には、先の貸借の返済されない以上、更に貸借が重ねられるということは全くなかったにも拘らず、本件に至ってはじめて被告人は先の貸借の返済が終っていないにも拘らず追貸しているのであり、この間の事情の変更について証人牧野は全くなし得ていないのである。

加えるに証人牧野は本件三、〇〇〇万円のうち二、〇〇〇万円程は返済したと供述し、その内容には一度に五〇〇万円という多額の返済が含まれていると述べながら、その回数についてすら全く記憶がないと証言するなどその証言態度は弁護人の質問に対して記憶を喚起せんとする一片の努力も窺うことが出来ず、不誠実の一語に尽きるものであった。この態度は、牧野自身に対する税務調査に話が進むや、より露骨なものとなっており、その証言態度は逆に被告人の供述を裏付けるものとなっている。

(六) 公判廷における被告人の供述には具体性があり特に、借用書原本が査察の後、牧野から届けられたことから押収されずに未だ被告人の手許にある事実は被告人の証言全体の信用性を担保している。

三、 喫茶店コスモ守口店の帰属関係について

この点についての被告人の捜査段階における供述は変遷しており、最終的に守口店の所有者は被告人であり、被告人こそが利益の帰属主体であるということになっているが、昭和五六年九月二九日付被告人に対する質問顛末書では、現在藤沢ハナヨの所有でありそれ以前は藤沢清のものでいずれも被告人の所有に属さない旨供述されている。

この供述の変遷について、被告人は原審公判廷において国税局の取調べの実態を詳細に供述しており結果的には取調官の誘導とこれに対する被告人の迎合により作成されたもので、原判決の認定は誤りである。

第二、量刑不当

一 被告人は、本件を反省し弁客号記のとおり、大同信用組合守口支店からの借り入れにより、昭和五三年度から同五五年度分までの国税(重加算税等全て)総額一億七、五四五万九四七三円を既に支払っている。

二 また、被告人の本件犯行はその手口からいっても稚拙なもので、決して計画的とは評することは出来ないものである。

三 更に被告人の本件犯行は常習賭博による執行猶予期間中の犯行であるが、両者が全く罪質を異にする点及び被告人が当時すでに右常習賭博に問われた賭博機の製造・リースからは身を引いており現在全く関与していない。

四 被告人は前記大同信金守口支店からの借り入れの返済として毎月約三〇〇万円を支払っており、そのため妻とともに寝食を忘れ事業に専念している。

以上、諸点を考慮するとき原判決の量刑は不当であると判断せざるを得ない。この点からも原判決の破棄を求めるものである。

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